2024.2.2 参議院 本会議 代表質問

 ○木村英子君

 れいわ新選組の木村英子です。本日は、会派を代表し、障害者の立場から質問いたします。
 元日に能登半島地震が起き、多くの方が犠牲になりました。心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。
 日本は、今まで幾度も大きな地震にみまわれ、多くの尊い命が失われました。本来であれば失われなくて済む命があった、それが今、岸田総理に問われている問題です。迅速に陣頭指揮をとるべき岸田総理が、被災地を訪れたのは2週間も経ってからでした。憤りを感じてなりません。
 東日本大震災では、障害者の死亡率は健常者の2倍と言われています。当時、地域で介護者をつけて一人暮らしをしていた重度障害者が津波がくるとわかったとき、「あきらめましょう」と言って、そのまま亡くなりました。危機を前にしてあきらめなければならなかった障害者の恐怖と無念、一緒に連れて行けず、一人、障害者を置いて、その場を立ち去らなければならなかった介護者の悔恨、これが自分で逃げられない私たち障害者の置かれた現実です。この現実を変えていかなければなりません。

 まずはじめに、全ての被災者の方たちに必要な支援を早急に行っていくために、先日開かれた予算委員会での、我が党の山本代表からの要請について確認いたします。
 私たちは、災害救助法の施行令を改正し、洋服や日用品などの生活必需品の支給金額を増額することや、災害救助法で支援する期間や数値を限定せず、災害の収束まで支援をすること、また被災者生活再建支援法を改正し、住宅再建費用の5分の4を国が負担すること、そして、これらの支援について、半壊以下の被災者や、過去の災害の被災者にも適用することなどを要請しました。
 それに対し、岸田総理が示した支援パッケージでは、私たちの要請は何一つ入っておらず、このままでは半壊以下の被災者や過去の災害の被災者の方々をはじめ、多くの被災者が取り残されたままになってしまいます。岸田総理は「できることは全てやる」とおっしゃっていますが、言葉だけでは何の意味もありません。我が党の要請は、被災者がお金の心配をせずに再建に立ち向かうために当然必要な支援策であり、今すぐ実行するべきです。岸田総理、お答えください。

 次に避難所のバリアフリーについて質問します。能登半島全体で、高齢化率が5割を超える地区が多く、障害者の方は1万人以上いますが、未だに避難できる避難所が見つからず、余震が続く中、壊れて危険な自宅にいるしかない方も少なくありません。原因の一つに、一次避難所のバリアフリー化の遅れがあります。一次避難所には、バリアフリートイレなどの設備がないことが多く、周りに迷惑をかけたくないとトイレや食事を我慢してしまうことで身体を壊し、災害関連死を容易に引き起こす状態にあります。一次指定避難所は、全国で約7万か所あり、そのうちの約4割が公立の小中学校ですが、主な避難場所となる体育館にバリアフリートイレがある学校は約4割しかなく、避難所のバリアフリー化が進んでいません。今回被災した能登地方では、バリアフリートイレが設置された体育館が一つもない自治体も存在します。避難所のバリアフリー化は障害者や高齢者だけでなく、子どものいる方や妊婦さんなど誰にとっても必要なことです。
 そこで各自治体に対し一次避難所のバリアフリー化を進めるよう働きかけるとともに、自治体が安心して取り組めるように、バリアフリー化の補助率を現行の2分の1から更に引き上げるべきだと思います。岸田総理の見解を求めます。

 また、福祉避難所では、介護する職員が足りず、新たな受け入れができないところも出てきており、一次避難所や自宅で避難生活をしている方も同様に介護者不足で、先ほども申し上げた通り、支援の必要な障害者や高齢者の方たちが災害関連死の危険と隣り合わせの状況です。支援の必要な方々には一刻の猶予もありません。国が予算をつけて責任を持って十分な数の介護者を被災地へ派遣しなければ、多くの方が犠牲になってしまいます。岸田総理、すぐに実行してください。

 そもそも、平時より全国で介護者が絶対的に不足しているため、災害などの緊急事態に人手不足がさらに深刻になっています。私自身も常に介護者不足で、いつ国会に登院できなくなってもおかしくない状況を抱えています。災害時に支援の必要な方々の命を守るためにも、人手不足解消のための介護者の待遇改善を今すぐに行うべきです。
 先日発表された報酬改定では、すずめの涙ほどの賃金しか上がらず、それどころか訪問介護の報酬に関しては減額されると聞き、耳を疑いました。全産業平均より年間75万円も低いとされる状況を激変させ、平時から他の業種と同等の賃金とすべきです。岸田総理、お答えください。

 支援の必要な障害者や高齢者にとって、設備などのハードのバリアだけではなく、差別的な言葉や扱いを受け、避難所に行けなくなったり、いられなくなる事例が後をたちません。今回の被災地でも、盲導犬を連れた視覚障害者の方が避難所で拒否されたり、知的障害者の子どもが大声を出して怒られ、避難所に居づらくなって、倒壊の恐れのある危険な自宅に帰るしかない方もいます。そして何よりも信じられなかったのは、被災者のために用意された仮設の入浴設備を利用しようとしたところ、「車いすの方や障害のある方、手のかかる方はご遠慮ください」と入浴を断わられた方がいたことです。このような差別や心のバリアは、障害者と健常者が幼いときから分けられ、同じ地域で出会う機会を奪われ、お互いを知らないことで生み出されてきています。
 そうした心のバリアを解消するために、国連をはじめ、あらゆる意思決定の場で「私たち抜きに私たちのことを決めないで」というスローガンが用いられるようになりました。東日本大震災で支援の必要な人たちが取り残されていたことをうけて、2015年に日本で開かれた国連防災世界会議では、誰も排除されない、誰も排除しない、誰も排除させない、インクルーシブ防災という考えが新たに打ち出されました。この会議の中では、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という言葉が繰り返し強調され、当事者参画が重視されています。障害者をはじめとする様々な当事者を排除せず、誰一人取り残さない防災・復興を実現するために、国連が提唱しているインクルーシブ防災の理念に基づき、今後あらゆる協議会や会議体には当事者を必ず参加させることを強く求めます。総理のご見解をお聞きします。

 岸田総理の言う「明日は今日より良くなる日本に向かう」と言う言葉が本当であるならば、今、震災で苦しんでいる全ての被災者の方々が一日でも早く元の生活に戻れるように、私たちの提案を実行することを、この場で国民に対して約束してください。以上、私の質問は終わります。

○内閣総理大臣(岸田文雄君)

 木村英子議員のご質問にお答えいたします。
 生活必需品の提供と被災者生活再建支援金についてお尋ねがありました。災害救助法に基づく生活必需品の供与については、あらかじめ定められた救助期間や基準額では救助の適切な実施が困難な場合にはその延長や引上げが可能であり、今回の災害でも柔軟に対応してまいります。また、被災者生活再建支援法は、やむを得ない事情により期間内に申請することができないと都道府県が認める場合には期間延長が可能であり、政府としては引き続き丁寧に都道府県の相談に乗ってまいります。
 その上で、被災者生活支援、支援金は、災害による財産の損失を補填するものとしてではなく、見舞金的な性格のものとして被災者を側面的に支援するものと位置付けられておりますので、まずは被災者生活支援金については迅速に支給をいたします。その上で、被災により住宅の被害を被った被災者への追加的な支援の在り方について検討を行いました。高齢者、高齢化が著しく進み、半島という地理的制約から地域コミュニティーの再生が乗り越えるべき課題となる能登地域六市町を中心に、地域福祉の向上に資する新たな交付金制度を設けます。その際に、半壊以上の被災をした高齢者等のいる世帯を対象として、家財等の再建支援に最大100万円、住宅の再建支援に最大200万円、合計最大300万円を目安に、地域の実情に応じた支援が可能となるよう早急に制度設計を進め、成果を得てまいります。また、同制度の対象とならない若者、子育て世帯についても遜色のない対応が必要であり、足下の物価、金利情勢を踏まえた住宅融資の金利負担助成など、地域の実情を踏まえたきめ細かな事業を行うことが可能となるよう、石川県と調整を行います。   

 避難所のバリアフリー化についてお尋ねがありました。公立学校のバリアフリー化については、説明会の実施や事例集の作成等により教育委員会への働きかけを実施しているところであり、引き続き取り組んでまいります。また、バリアフリー化されていない施設を避難所として開設した場合には、仮設の障害者用トイレやスロープの設置費用について災害救助法による国庫負担の対象としております。学校施設のバリアフリー化への国庫補助の割合については、令和3年度に3分の1から2分の1に引き上げたところですが、今後とも、障害者の、障害者や高齢者等の要配慮者の方々の視点に立ち、全ての人が安心して避難所を利用できるよう、避難所のバリアフリー化を促進してまいります。

 そして、被災地への介護職員の派遣についてお尋ねがありました。避難所等において介護を担う職員に不足が生じている状況を改善するため、関係団体と連携して、被災により従業員が不足する施設や避難者を受け入れる施設等への介護職員等の応援派遣を進めております。これに加えて、自治体職員や保健師などが巡回等を行い、在宅避難者等の状況の把握に努めているとともに、避難所にDWAT、災害派遣福祉チームを派遣して支援を行っています。必要な予算は確保しており、要配慮者の方が安心して避難生活を送ることができるよう、引き続き、県とも連携しながらこれらの取組を推進してまいります。

 介護者の処遇改善についてお尋ねがありました。介護、障害福祉分野における賃上げを始めとす る人材確保への対応は重要な課題であり、岸田政権は、公的価格、公定価格の見直しを掲げ、これまで累次の処遇改善を講じています。今般の介護、障害福祉分野の報酬改定では、政府経済見通しで、令和6年度の全産業平均の一人当たりの雇用者報酬の伸びが2.5%と、物価上昇率と同水準と見込まれている中、こうした見込みと整合的にベースアップを求めているところであり、物価高に負けない賃上げを実現することで人材確保を進めてまいります。

 インクルーシブ防災についてお尋ねがありました。障害者を始め、誰もが排除されず、誰一人取り残されない防災や復興を実現していくため、防災政策の検討過程等における障害者や女性、高齢者などの参画を促進し多様な視点を取り入れること、これは重要であると認識をしております。国の防災基本計画では、地方防災会議の委員への任命など、地域の防災に関する政策決定過程や防災の現場において障害者などの参画の必要性を明記するとともに、国においても、被災者支援の在り方を検討する会議等で、障害当事者団体の代表の方に委員として参画いただくなどの取組を進めています。今後とも、様々な立場の当事者の方が参画する意義を十分に踏まえ、インクルーシブ防災の推進を図ってまいります。

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