2021.5.18国土交通委員会質疑『車いす利用者の踏切の安全対策について』

○木村英子君 
 れいわ新選組の木村英子です。
 改正された踏切道改良促進法に伴い、本日は、車椅子を利用している当事者の立場から、踏切の安全対策についてお話しします。
 重度障害者の私にとって、そして車椅子を利用する障害を持った人たちにとっても、車椅子はただの福祉用具ではなく、とても大切な体の一部です。これがなければ日常生活を円滑に送ることはできません。車椅子による踏切の事故が多い中で、車椅子利用者が安心して町中を歩けるように、その解決策を検討していただくために質問いたします。
 国交省としては、車椅子利用者の踏切の安全対策の一つとして、車輪がレールの溝にはまるのを防ぐために、レールの溝に緩衝材を入れる対策を各鉄道事業者に周知しているところです。資料2をご覧ください。このように、緩衝材を入れれば溝は少し浅くなりますが、それでも深さ3センチほどの溝が残ってしまうため、車椅子の車輪が溝にはまって踏切内から出られず、事故に遭ってしまいます。
 国交省の調査によると、過去五年間に車椅子利用者の踏切事故は12件あり、そのうち11件は、踏切内のレールの溝に緩衝材が入っていたにもかかわらず事故が起きてしまっています。また、資料1の独立行政法人製品評価技術基盤機構の調査によれば、2018年に踏切内で電車にはねられて死亡した電動車椅子利用者は5人となっています。2009年から2017年までに電動車椅子使用者が踏切内の事故で亡くなった人数は計6人ですので、2018年に急増したことが分かります。
 この団体の調査では、これらの事故について、原因が特定できないものを除いて製品に起因した事故ではないとしており、前輪が線路の溝にはまって立ち往生したことなどが原因と見られています。
 この調査資料では、電動車椅子利用者への注意事項がまとめられており、踏切の通行はできるだけ避け、やむを得ず通る場合は、介助者が同行することや、線路の溝に車輪がはまるのを防ぐためハンドルをしっかり握って線路に対して直角に進むことなどが書かれています。しかし、どんなに車椅子利用者が注意しても、線路の溝に車輪がはまってしまうという事実は変えられませんので、車椅子利用者の踏切内での事故はなくならないと思います。
 実際に、私も何度も踏切を渡ったことがありますが、毎回、車輪が溝にはまらないように進路に対して真っすぐに走るように気を付けています。しかし、いつも緊張しながら渡るので、線路の真ん中で急に警報器が鳴り出すと、音にびっくりして車輪がレールにはまってしまうことがあります。そんなときは介護者に引き上げてもらうのですが、もしも介護者がいなければ線路内から出られず、電車にひかれることは避けられないと思います。
 車椅子利用者にとって、線路に車輪がはまった場合、自力で抜け出すことは容易ではありません。ですから、車椅子利用者が安心して踏切を渡れるように、国と鉄道事業者が連携して車椅子利用者のための安全対策を講じていただきたいと思います。国交省が安全対策の一つとして掲げている、挙げているレールに緩衝材を入れる対策ですが、それだけでは車椅子利用者の事故を防ぐことはできないと思います。
 踏切内に車椅子利用者が取り残された場合、国交省としてはどのような安全対策を講じているのか、お聞かせください。

○政府参考人(上原淳君) 
 お答えいたします。
 国土交通省では、平成27年に、有識者、鉄道事業者、関係行政機関から成る高齢者等による踏切事故防止対策検討会を設置し、高齢者や障害者の踏切事故の原因を検討し、対策を取りまとめてまいりました。その中では、踏切内の段差やレールと路面との隙間、溝に車椅子の車輪などが引っかかり、踏切内に取り残される可能性があるため、二つのことを検討をしてまいりました。
 一つは、段差解消による踏切内の平滑化というものでございまして、従来のレールとレールの間にはコンクリートブロックが分かれて設置をされている状態になっておりますが、この分かれていたコンクリートブロックを一つの構造にいたしまして、そこにくぼみを設けてレールを配置していくような、そういう形を取ることによってこのくぼみの段差が少しでも小さくなる、そういう構造をやっております。これは連接軌道化というやり方でございますが、これで極力段差をなくそうという取組。
 それからもう一つが、委員御指摘の緩衝材によるレールと隙間の解消ということでございます。
 今回の踏切法の改良では、バリアフリー施策の一環として、この段差解消につきましても、踏切の改良方法の一つとして位置付けたところでございますが、一方で、委員御指摘のとおり、現行の緩衝材の多く、このお配りいただいている資料のような形のもの、これは護輪ラバーと言われているものでございます。隙間への緩衝材でございまして、この隙間に列車が走行、特に曲線を走る場合に車輪のフランジという、レールに沿って曲がれるように車輪の外縁に出っ張りがございます。この出っ張りがこの溝を通る、その溝を通る際の摩擦をなるべく元々軽減するためにこうした護輪ラバーというものが設けられております。このフランジと接触する護輪ラバー、緩衝材の耐久性や保守性の確保ということは、委員御指摘のとおり、非常に課題となるところでございます。
 現在、鉄道局といたしましては、鉄道総合技術研究所などと連携をいたしまして、新たな緩衝材として、まず、この絵の、絵にございます護輪ラバー、この上に新たに天然ゴム等を接着をして、その段差を少なくする、そしてまた、この護輪ラバーの耐久性を確保していくといった取組、あるいは、もう護輪ラバーを一つ取ってしまって護輪ラバーと一体としてこうしたその充填材を設けるというような開発を進めてまいりました。現段階では、こうした新たな緩衝材につきましては、耐久性、安全性など、実用化に向けた段階に今研究開発が進んできているというところでございます。
 また、委員が御質問である万が一車椅子が取り残された場合、これは、当然ながら非常用の押しボタンあるいは踏切障害物検知装置の設置といったことが重要になってまいります。
 これらにつきましては、その設置をなるべく早く進めるように鉄道事業者に指導を行うとともに、経営状況が厳しい鉄道事業者がこうした障害物検知装置の設置を促進できるように平成13年から支援を行ってまいりましたが、平成28年度からは非常用押しボタンやあるいは車椅子が検知可能な3D方式のこうした障害物検知装置への切替えを促進するための補助事業を実施しているところでございます。

○木村英子君 
 分かりました。
 レールの段差解消については引き続き技術開発を進めていただきたいと思いますが、現時点では感知能力の高い3D式の障害物検知装置が最も車椅子の方には有効だと思っています。
 そこで、資料3をご覧ください。
 障害物検知装置は、約3万か所ある1種踏切のうち約1万か所に設置されていますが、その約8割が光電式障害物検知装置となっています。その装置では主に自動車を検知対象としており、歩行者や車椅子利用者はなかなか検知することができません。
 資料4をご覧ください。
 車椅子利用者の死亡事故においてもこの装置が機能しなかったケースがあり、光電式障害物検知装置では車椅子利用者の命を確実に守っていくということはできません。
 そこで、最近ではより検知能力の高い3D式の障害物検知装置の導入が進められていますが、この装置が設置されている踏切は約1700か所にすぎません。これでは車椅子利用者の事故は減りません。障害者や高齢者の社会参加が進む中で、車椅子利用者の外出がより増えていくと思いますので、踏切の安全向上のための3Dの障害物検知装置の設置を早急に増やしていただきたいと思っています。
 また、3D式障害物検知装置の設置を進めるとともに、運転手が非常時の信号を見逃さないための対策も必要です。障害物検知装置のシステムは、運転手が信号を目視して手動でブレーキを掛けなければならないため、運転士が特殊信号発光機の信号を見逃したり、急ブレーキを掛けるタイミングが遅れたりして、事故を防げない場合があります。
 そこで、JR西日本では、資料5をご覧いただくと分かるとおり、運転士が信号を見逃さないための対策として、列車の先頭にカメラを取り付け、特殊信号発光機の信号を感知すると運転手に音で知らせるシステムを開発しました。こちらは一部の線に試験導入され、現在は実用化に向けて試験結果を検証中とのことです。
 さらに、障害物検知装置が作動した際に踏切の手前で停止するよう自動でブレーキを掛ける自動列車停止装置、ATSを導入している鉄道事業者もあると聞いています。こうした取組を国として常に情報把握し、より確実な安全対策を検討していく必要があると思います。
 次に、資料6をご覧ください。
 3D式障害物検知装置等の設置をする鉄道事業者は、踏切道改良促進法に基づいて、鉄道施設総合安全対策事業に係る補助金を申請することができます。しかし、補助対象事業者に要件があり、赤字又は営業利益率の少ない鉄道事業者、かつ全事業において赤字又は営業利益率の少ない事業者のみを対象としており、例えばJR本州三社はこれまで補助の対象になっていませんでした。鉄道事業者の経営状況によって補助対象を絞っている現状では、3D式障害物検知装置の設置等の安全対策を事業者が最優先に取り組んでいくのかが懸念されます。
 踏切道改良促進法は、踏切での交通事故を防ぐための法律だと思いますので、安全と命を最優先に考えて、補助対象事業者の要件や補助率を見直していくべきだと考えます。
 車椅子を利用する障害者や高齢者の命を守るためには、検知能力の高い3D式の障害物検知装置の設置を進めることが最も必要だと思われます。踏切事故では、多くの障害者や高齢者が犠牲になっていますので、命を守ることを重点に、全踏切の安全性を向上させるため、鉄道事業者の経営状況にかかわらず、全ての鉄道事業者を障害物検知装置等の設置の補助対象事業者にするように検討していただきたいと思います。
 さらに、特殊信号発光機が反応した際に運転士に音で知らせるシステムや自動でブレーキが掛かる踏切用ATSの導入など、各鉄道事業者の取組を把握した上で、より安全性を高められる新技術については、鉄道施設総合安全対策事業の補助対象となるように併せて検討していただきたいと思いますが、赤羽大臣のお考えをお聞かせください。

○国務大臣(赤羽一嘉君) 
 踏切における事故は撲滅していかなければいけないというのは、鉄道事業者も、また国土交通省も全く同じ考えでございます。
 特に、平成28年度から、非常用の押しボタンですとか全方位型警報機、また人や車椅子の検知が可能となる3Dの障害物検査、検知装置への切替えもこの補助対象に追加をしておりますし、また、今回の踏切道改良法、改良促進法の改正では、踏切の状態を監視するためのカメラの設置も新たに補助対象とさせていただいたところでございます。
 これまでもこうした支援制度を拡充してきたわけでございますが、今後も、新技術の開発に合わせ、また、関係者、当事者の皆様の意見を聞きながら、そうしたことの対象の幅を広げるというのはこれからも不断なく努めていきたいというのが第一点でございます。
 その対象についてちょっと多分誤解があるんだと思うんですが、赤字事業者又は営業利益率が少ない事業者に限定しているということがJR三社ですとか黒字の会社はやらなくていいという話ではなくて、限られた財源の中で全部に広げると、結局、赤字の事業者ですとか営業利益率が少ない事業者に対しての補助が薄くなってしまうということであります。
 ですから、黒字会社、JR三社等は、これは当然、この安全対策というのは最優先で行うというのはこの彼らの姿勢でもありますし、そうしたことは進めるべきであるということでありますし、加えて、経営状況が悪い会社でも、しっかりとこの踏切保安設備の整備等々について鉄道事業者が果たすべき役割は果たしてもらわなければいけないわけですし、そうしたことが、経営体質が貧弱なところに対しましては国が集中的にサポートをするということでございます。
 総合的にしっかりと、この踏切道のみならず鉄道の事故が改善されるように、安全、安全第一の鉄道行政、しっかりと取り組んでまいる決意でございます。よろしくお願いします。

○木村英子君
 ありがとうございます。質問を終わります。

\シェアしてね!/